という声が聞こえてきそうですね。私達は生まれた時から日本語を話せたわけではありません。日本語のシャワーを浴びながら成長して、聞く耳と理解する脳を育ててきました。物心ついた頃から、自分の耳で聞いた言葉を真似して発音する訓練を自然にしてきたんです。だから、どこの筋肉を動かすのか意識せずに日本語を発音をしています。
幼い頃から海外で育った日本人や、多言語の国の子供達は2,3ヶ国語を同時に学習しているので、彼らの口の中では数カ国語がいとも自然に折り合いをつけて存在しています。でもそれ以外の人達は母国語が身についてから第二外国語を学びます。日本語を発音する口は持ち合わせていますが、その口でアルファベットの発音をしても日本人の発音する英語にしか聞こえません。
私は渡米してから約2年後に初めて一時帰国しました。飛行機に乗った時はちょっと衝撃でした。フライトアテンダントの英語の機内アナウンスが、全部カタカナに聞こえたんです。どれだけの乗客が聞き取れていたのか微妙なスッチー英語でした。
英語の口と日本語の口
きっと貴方は唇の辺りを指すでしょう。でも、英語の口は唇だけではありません。英語の口は顔の頬ぼねから顎までと、口の中は唇から舌の付け根の辺りの口腔内全て、それからサイナス(鼻の裏側の空間である鼻腔)も含みます。
それでは早速、日本語の母音と英語の母音がどれだけ違うか比べてみましょう。
基本の5つの母音で日本語と英語の違いを比較
ぼいん【母音 vowel】
声道(声門より上の咽頭,口腔,鼻腔を含めた部分)において,流れ出る空気が妨害されることなく発せられる言語音。口の開きや舌の構えの変化にともなって,口腔内に作られる共鳴室の形状により音質が定まる。これは声道において流れ出る空気の妨害が行われる子音とは区別される。<以下省略>(出典:世界大百科辞典平凡社)
事典ではこの様に難しく書かれていますが、ここではあまり難しく考えずに、母音は口の中の空間の形と口腔内の動きだけで出る音と頭に入れておいてください。
さて、ここからは顔がよく写る大きさの鏡を用意してください。日本語の母音は「あ」「い」「う」「え」「お」の五つです。でも、世界には五つ以上の母音がある言語もあります。英語には単母音の他に、二重母音もあるので日本語よりも数が多いですが、ここでは基本の「あ」「い」「う」「え」「お」とそれに対応する”ɑ” “e” “i” “ɔ” “u”だけで比較します。
日本語の母音
- 鏡で自分の顔を見ながら大げさに「あ、い、う、え、お。」と言って見てください。
- 今度は両手を左右の頬に当てて、頬の動きを感じながら言ってみてください。
どこが動いているかわかりましたか?唇と頬がよく動いているのがわかりますね。
- 次に、鏡を見ながら「あ行」を横に「あ、か、さ、た、な、‥‥」と言いながら唇の形や口の開き方を見てください。
- 他の行も同様に鏡を見ながら大げさにゆっくり発音してみてください。
横に発音してみると発音がし終わった時の唇や口周辺の形は以下の表の様になったと思います。日本語の母音の考え方はこれですね。
あ行 | 唇が丸く開いて、顎が下に下がり、舌も下がる。前歯はあまり見えない。 |
い行 | 唇が左右横に引っ張られる、上の前歯がよく見え、上下の歯が閉じている。 |
う行 | 唇をすぼめて突き出ている。前歯は見えないが上下位置は近い。 |
え行 | い行程ほどでは無いが、横に開く。上下の歯の間から舌が見える。 |
お行 | う行の様に唇をすぼめて、更に顎が下方に開くので頬が上下に伸びる上下の歯は閉じていない。 |
日本語の母音は口腔内の開け方よりも、唇周辺の動きが音と関係していることがわかりますね。変な言い方ですが、母音なのに限りなく子音に近い発音をしているとも言えます。では、今度はちょっと変わったやり方で発音して見ましょう。
上下の奥歯を噛み締めて、唇は力を入れずに自然に開けます。唇は動かさ無い様に鏡を見ながら、もう一度「あ、い、う、え、お。」とはっきりと聞き取れる様にゆっくり発音してください。
このテクニックはインサイドワークといって、腹話術士が使うテクニックです。このテクニックが英語の母音の発音ではとても大事なんです。では次はいよいよ英語の母音です。
英語の母音
さあ英語の母音を練習しましょう。”ɑ” “e” “i” “ɔ” “u”をインサイドワークを使って発音しましょう。
- まず唇をポカンと丸く開けます。日本語の「あ」の発音をする様な感じです。
- 次に口の中に鶏の卵が一つ入っていると想像して口腔内のスペースを十分広げてください。
- 鶏卵は口の中のスペースの形のイメージです。更に丸く開けた唇をなるべく動かさずインサイドワークで、下の表の説明に沿って意識して発音してください。
ɑ | 卵の先の細い方が口の奥に向かって入っているイメージで「ア」 |
e | 卵が横向きになって”a”よりも口腔内のスペースが横に広がるイメージで「エ」 |
i | 卵の細い方が上になって縦になります。鼻の裏側が上に上がるイメージで「イ」 |
ɔ | 卵の先の細い方が唇の方に向いて、口が前後に長くなっているイメージで「オ」 |
u | “ɔ“の発音をした時の卵のポジションから卵を口の外へまっすぐ押し出すイメージで「ウー」 |
最初は難しいと思います。イメージを掴んで出来る様になるまでゆっくり、何度も練習してください。唇がどうしても動いてしまう場合は、右手の親指と人差し指で輪を作って、その輪を丸く開けた自分の唇に押し当てて、動かない様におさえても良いです。
英語の母音が発音できる様になったら、「実践その1」の日本語の母音を交互に発音して、違いを聴き比べて見ましょう。自分の声に集中する様に、目を閉じて聞いたり録音して聞いて見てください。英語と日本語対応する五つの母音で音質に違いがありませんか?
私は唇から外へ音を出そうとする日本語に対して、英語は鼻腔や頭蓋骨の中で共鳴させている感じがします。昔「また逢う日まで」を大ヒットさせた尾崎紀世彦さんという人気歌手がいましたよね?ハワイ出身の彼は日本語の歌を英語の母音で歌っています。深みのある歌声が魅力でしたよね。また、アメリカ人ロックシンガーのシンディー・ローパーの母音は日本語の母音に近いです。彼女の歌声は甲高くて幼い可愛らしい音色です。
どうでしたか?ここでは日本語と英語の母音の違いを、日本語に対応する五つの英語の母音で説明しました。この五つの発音記号を見ただけで、すぐにそれぞれの母音の発音ができる様に覚えてくださいね。次は日本語に無い英語独特の母音についてお話しします。