ジャズスタンダードの歌詞を音読してみよう
“I Can’t Give You Anything But Love”にチャレンジ
ここでは”I Can’t Give You Anything But Love”という曲を取り上げます。一般には有名ではありませんが、「捧ぐるは愛のみ」という邦題で知られているスタンダードです。私も先生について一番最初に習ったのがこの曲。世界中のジャズヴォーカリストが歌っている曲です。
歌詞を音読するファーストステップは歌詞の下に発音記号を書き出す作業です。そして単語一語ずつ音節を確認するところから始めます。先はまだ遠いけど、千里の道も一歩からです。歌詞は以下の様になっています。
I Can’t Give You Anything But Love
A: I can’t give you anything but love, baby.
That’s the only thing I’ve plenty of, baby.
Dream a while, scheme a while.
We’re sure to find happiness, and I guess,
all those things you’ve always pined for.
B: Gee, I’d like to see you looking swell, baby.
Diamond bracelets Woolworth doesn’t sell, baby.
Till that lucky day, you know darned well, baby.
I can’t give you anything but love.
Step 1:一つ一つの単語を発音して確認
ここでは発音にフォーカスするので、”I Can’t Give You Any Thing But Love”の意味はこちらを参考にしてくださいね。
この曲は前半のAセクションとサビのBセクションから構成されています。まずは最初の一行目のフレーズを使って説明します。以下のように一語一句を分解して、それぞれの音と口の中の動きを確認しながら正確に発音することに集中しましょう。
”I” [aɪ]:母音だけの音ですね。[a]と[ɪ]をそれぞれを分けて口の中の動きと音を確認しながら大げさに何回か発音します。それから、ゆーっくり[aɪ]と繋げて発音しましょう。でも、歌舞伎の子役の「あーいー。」にならない様に!
“can’t” [kænt]:[k], [æ], [n], [t] 母音一つと三つの子音です。それぞれ口を大きく開けて発音して確認しましょう。[n]は鼻をつまんでちゃんと鼻音になっているか確認しましょう。それが出来たら[kænt]とつなげて発音練習します。
“give” [ɡɪv]:[ɡ]は喉の奥が動いていますか?[ɪ]は口の中が縦に開いていますか?有声の摩擦音[v]で終わる発音は難しいですが、はっきりとわざとらしいぐらいに音を出して[ɡɪv]の発音を練習しましょう。
“you” [ju:]:半母音の[j]の音は大げさに発音した時、最初に濁った音がしていますか?耳の下の辺りが動いているか確認してくださいね。「湯(ユ)」ではありませんよ。この音だとほっぺは動きません。[u:]は[:}がついているので、「ウ」の母音を伸ばして発音します。
“anything” [eniθɪ̀ŋ]:ちょっと慣れてきたところで、[e],[ni],[θɪ̀],[ŋ]と四つの音節に分けて練習してみましょう。口を大きく横に開けて[e]、鼻音と母音をつなげて[ni]、[ɪ̀]の音はきちんと聞こえますか?唇は横に広がり、口の中の空間は縦長になっていますか?鼻が動くはずです。[θɪ̀]は摩擦音に[ɪ̀]の母音のコンビネーション。軟口蓋の鼻音[ŋ]が綺麗に発音できたら、最後の2音節は[θɪ̀ŋ]とつなげて練習です。三つの音節がゆっくり綺麗に発音できたら、全てつなげて一語で発音しましょう。
“but” [bʌt]:有声の唇閉鎖音[b]、[a]をはっきりと強く発音する母音[ʌ]、歯茎に舌先を破裂させて[t]。一語で発音する場合は最後の[t]の音を綺麗な音になる様に意識して発音しましょう。
“love” [lʌv]:[l]は舌先が前歯の歯茎についていますか?[ʌ]再登場の母音です。[v]唇歯の摩擦音で終わる単語は多いので、[ɡɪv]と同様に音をクリアに綺麗に出すことに慣れてしまいましょう。
“baby” [beɪbi]:三つの音節でゆっくり練習しましょう。[be], [ɪ], [bi]。気がつきましたか?「ベイビー [beɪbi:]」とか「ベービー [be:bi:]」ではありませんね。「ベイビ [beɪbi]」となります。
Step 2:単語をつなげて文を音読
I | can’t | give you | anything | but | love, | baby. |
aɪ | kænt | ɡɪv juː | eniθɪ̀ŋ | bət | lʌv, | beɪbi. |
これは歌詞の一行目のフレーズです。上段が英文、下段がそれに伴う発音記号です。発音記号をマスターしていると、発音記号を見ながら発音する方が楽に発音ができるようになっているはずです。
一つ一つの単語を綺麗に発音できるようになったら、それぞれの単語を続けざまに発音して文章を音読するステップに入ります。
ここで気付いたと思いますが、”give you”の二つの単語の発音記号が下線で繋がっていますね。ここは『リンケージ』が行われる箇所なので、[v]と[j]の発音記号を[ɡɪv juː]とアンダーラインでつなげて印を入れています。リンケージとは二つの単語を一つにつなげて発音するという意味です。音的には「ギヴュー」となります。ネイティブスピーカーがワンフレーズをスムーズに発音する為に無意識に使うテクニックです。
それから、”but”の発音記号[bət]は[t}に棒線を付けています。これは『サイレンス』を表しています。こちらも頻繁に使うテクニックで、口の中は有声の破裂音[t]をする為に舌先が歯茎の裏に接触しますが、音を敢えて出さないテクニックです。サウンド的には[bə_ lʌv]と聞こえるはずです。舌先を歯茎から離さずに、その前歯の裏に付いた舌の先をそのまま利用して”L [l]”の発音をします。言い換えると破裂させて音を出す代わりに、無音のスペースを作ることで[t]の音を連想させるに留め、スムーズに[lʌv]の発音する仕組みです。
以上の事を注意して、兎に角ゆっくり、はっきりと、口の中の動きと母音、子音の音を確認しながらゆっくりと発音練習をしましょう。ペラペラと早く流暢に発音するよりも、速度を落として大袈裟なぐらいゆっくり発音する方が口の中の筋肉の動きを誤魔化せないので、難しいことに気がつくはずです。
さあ、やっと最初の一行、4小節に相当する一行が発音できました。この調子で全文を攻略していきます。次は歌詞全体の発音記号と発音する上でポイントになる箇所を解説しますね。
- 音読練習したい英文や歌詞を書き出して、その下に発音記号を調べて書き出す。
- 単語一つづつ丁寧に発音して自分の耳で音を確認。正確に発音できるまでゆっくりとしたスピードで口の筋肉が慣れるまで練習。
- 単語が発音できるようになったら、文をゆっくりとしたスピードで音読。リンケージやサイレンスになるか自ずと気がついたら、発生する箇所をマークする。もし、分からない場合は、ネイティブスピーカーの録音等を聴いて確認する。
- スロースピードで明瞭に発音が出来るようになったら、標準の会話の速度で音読練習を繰り返します。